校庭に花水木も咲きました。
本との出会い
高校時代によい本とたくさん出会ってほしいと私は思っています。素敵な人との出会いと同じように、良い本との出会いも自分の世界を広げ、人生を豊かにしてくれます。読書家としても知られる上皇后の美智子さまは、子供時代の読書が自分に「根っこ」と「翼」を与えてくれたとおっしゃっています(*)。ちなみに美智子さまは青年期をカトリック学校で過ごされました。私が出会い、心に残った本を紹介していきたいと思っています。
Sr.渡辺和子
今回紹介する本の著者である渡辺和子さんも青年期をカトリックの学校で過ごし、洗礼を受けた後、岡山にあるカトリックの女子大学で長く学長を務められた方です。豊かな教養、さまざまな出会いや辛い経験の中から得た「知恵」は、私たちの人生や日々の生活について多くの示唆を与えてくれます。本校にもお話に来ていただいたこともあります。お亡くなりになられましたが、私たちはいまもSr.渡辺和子の多くの著作物からその知恵に触れることができます。私は最近、三十年以上前に発刊された『渡辺和子著作集』(全五巻)を入手しました。
『置かれた場所で咲きなさい』
この本はSr.渡辺和子が85歳の時(2012)に出版されました。まさに長く貴い人生で得たエッセンスが一冊に詰まった贅沢な本だと思います。「老人が一人亡くなることは、図書館が一つ亡くなるに等しい」という諺がアフリカにあるそうですが、まさにそれを実感します。多くの人々の共感を得て、現在300万部を越えるベストセラーとなっています。短いお話からなるエッセイ集なので、思いついた時にどこから開いても繰り返し読めます。一章読んでは心の中で温めるスロー・リーディングに適した本です。
王さまのごめいれい
もちろんSr.渡辺の体験談も参考になりますが、シスターが出会い、本に引用されている珠玉の言葉の数々も心に沁みます。その言葉と出会ってよかった!という気持ちになります。すぐれた先人たちの金言や詩のほかに、シスターの母の言葉や小学生が作った詩なども紹介されています。小学6年生の詩はこんな詩です。
「王さまのごめいれい」
といって、バケツの中へ手を入れる
「王さまって、だれ?」
「私の心のこと」
寒い朝、ぞうきんをゆすぐ。冷たい水の入ったバケツに手をいれなければならない。こんな時、誰しも心の中で「いやだなあ」と思う気持ちと「でもしないといけない」という気持ちとの葛藤があります。この詩に対してシスターは次のようにコメントしています。
実は、私たち一人ひとりの心の中にも、
この「王さま」は住んでおられるのです。
ためらっている私たちに、 善いことを
「しなさいよ」とすすめ、悪いことを
「してはいけません」と制止していて
くださるのです。
カピタニオの宗教の授業などで「良心の声」と生徒たちに伝えているのは、たぶんこの王様と同一人物だと思います。
校長 村手元樹
*講演「子供の本を通しての平和―子供時代の読書の思い出」(宮内庁のHPに全文記載)
渡辺和子『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬舎、2012)単行本
渡辺和子『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬舎文庫、2017)解説や後書きなどが付いています。