【朝礼の話⑰】君たちはどう生きるか
2023.10.20

「秋の七草」の一つ、萩の花が咲いています。

 

◇秋の読書週間◇

来週は「秋の読書週間」、また再来週には上野千鶴子さんの講演会が予定されています。人の文章をたくさん読んで人の話をたくさん聞くことで、視野が広がり、思考力や表現力が養われます。この機会をぜひ生かしてください。

◇『君たちはどう生きるか』をようやく読む

さて、今日は読書週間に因んで一冊の本を紹介します。吉野源三郎さんの『君たちはどう生きるか』という本です。今から85年くらい前、昭和12年に書かれた本ですが、最近またリバイバルしてベストセラーになったので、題名ぐらいは知っている人も多いと思います。私が読んだのは実は最近のことです。とても有名な本なので、昔からよく知っていてはいたのですが、主人公の名前の「コペル君」という名前から来る世界観が何となくピンと来なくて、食わず嫌いというか、読まずに過ぎてしまったんですね。

ところが池上彰さんが推奨していたり、宮崎駿監督にも思い入れがあって、内容は映画とは直接関係ないそうなのですが、おそらく最後の作品の題名に使ったりということで、読むことを決意しました。ちなみに再来週の上野さんの講演会のタイトル「女の子はどう生きるか?」もこの本の題名から来ています。

実際読んでみて、とても面白くて感動して、一気に読みました。目頭が熱くなるような場面もあります。「もっと早く読んでおけばよかった!」と思う本があるのですが、そんな本です。もう一つ後悔したのが、コペル君はあだ名で、本名は本田潤一という、ものすごく普通の名前であることを知りました。しかもコペル君というあだ名にはとても深い意味があることも分かりました。

◇「コペル君」と叔父さんとの関係◇

コペル君は旧制中学の2年生で十五歳なので、今だと高校一年生の男の子です。「どう生きるか」と言ってもテクニカルなことではなく、人間として生きる姿勢というか心構えみたいなものをコペル君の日常の出来事を通して描いた小説です。お父さんを病気で亡くして、近くに住む叔父さん(母の弟)が親代わりとなってコペル君にいろいろと助言をしてくれたり、物の道理を教えてくれたりします。いわゆる「メンター」と言われる存在です。構成が特徴的で、一章ごとにコペル君が叔父さんに出来事やそれについて考えたことが書かれた後、最後にそれに対してコメントする叔父さんの「ノート」が付いていているという対話的な構成になっています。こんな叔父さんがいたらいいなと思います。

◇自分の頭で考えることの大切さと楽しさ◇

特に私が感銘を受けたことは、自分の頭で考えることの大切さがひしひしと伝わってくるところです。物事を表面的に理解するのではなく、分かり切ったことのように考え、それで通っていることを自分の頭を使ってもう一度、とことん考えてみることをコペル君は叔父さんに教えられます。例えば、コペル君の家にはコペル君が赤ん坊の時使っていた粉ミルクの缶をお菓子入れに使っています。その缶にはオーストラリアの地図が書かれているんですね。オーストラリア産です。夜中にふと目を覚まして考えます。オーストラリアの牛から、コペル君の口に粉ミルクが入るまでのことを順に考えたりするわけです。すると何千人、何万人の人が出てきて、繋がっている、その発見を叔父さんに得意になって報告すると、「すごいね、でもそれは君の発見ではなく、経済学では既に『生産関係』と名付けられていることなんだ~そういうと君はさぞがっかりするかもしれない、でもね・・・」というようなやり取りが続いていきます。

とてもよい小説なので、いつか読んでみてください。

校長 村手元樹

*2023.10.19 全校朝礼